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*Under Eden

大丈夫、あなたの知らない光を、私は知っているから。
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Blue& 1
 選ぶんだ、この汚れた大地の上で生き続けるかどうか。神が消える、その時までに――。

   *   *   *

 深い深い海の底で、蒼い空が墜ちてくるのをずっと、ただ待っていた――。

 夏の光に染まった海岸に座って、スケッチブックに絵筆を走らせる。暦は今日から九月に変わったけれど、まだ秋の気配は遠い。砂浜で遊ぶ親子やサーファーの姿も目に映る。こんな夏と秋の間の、少し落ち着いた、静かすぎない海が私は好きだった。
 開いたページに広がるのは、幾重にも塗り重ねた、大好きな青。上半分は空、下半分は海。青に足すのは、雲と波の白だけ。綺麗な色、だけ。
 この季節に高校の制服のまま外にいるとすごく暑い。汗が絵に落ちないよう、筆を持った手で額を拭う。
 ふと顔を上げた、その時。
さっきまで小さく聞こえていた子供の声が、消えた。海沿いの道を走る車の音も、海鳥の声も、ない。聞こえるのは、ザザァという打ち寄せる波の音だけ。また、呼ばれている。
 私は海を見つめたまま、ゆっくりと立ち上がる。吸い込まれそうな青がだんだん近づいてくる。
「ねえ、海ってさ、空の青が映って青いんだっけ」
 急に掛けられた声にびくん、と驚いて振り向く。
 砂浜に続く階段を軽快に下りながら、制服を着た男の子がこっちを見て笑った。明るい茶色の髪が日差しにキラキラと輝く様子に目を引かれる。
 彼はそのまま近づいてくると、私が握り締めていたスケッチブックを無遠慮に覗いた。
「海と空の絵、か。綺麗だね。でも、その二つの青で終わった世界なんか、美しくもなんともないんだよ」
「え……?」
 それまで親しみを感じさせていた彼の笑顔が一瞬にして皮肉を含んだものに変わったように見えて、身体がこわばる。そして同時に、彼の身につけている制服が自分と同じ学校のものだと気づいた。
「はじめまして、海のお嬢さん」
| Blue& | 23:40 | comments(0) | - | |
Blue& 2
 その蒼を見ているときだけ、楽に息が出来る気がした――。

 新学期の初日。熱風に支配される中、たくさんの人間が詰め込まれた教室というまさに「狭い箱」の中にいると、気分が悪くてたまらなかった。久しぶりの再会だとか言って話に盛り上がる奴らが実は自分と同じ人間じゃないんじゃないかとか、そんな馬鹿みたいな考えが浮かんだりするほど。
 だから俺は、窓際の一番後ろの席から、一人でひたすら空を見上げていた。「箱」の外に広がる、晴れた青い空と、流れていく白い雲を。自由を。
「みんな静かにー。今日は突然だが転校生を紹介する」
 担任の言葉にざわめく教室に目を戻すと、ちょうど教室の前のドアから入ってくる男が見えた。この学校では珍しい明るい茶髪。
 緊張を感じさせない足取りでそいつは教壇に上ると、担任の横に並んだ。そして背筋を伸ばして前を向いた瞬間、なぜか目が合った気がした。
「はじめまして、重野大地です。親の仕事の都合で隣の県から転校してきました。高ニの二学期っていう中途半端な時期ですが、どうぞよろしく」
 転校生らしくあいさつをこなしたそいつは、担任の指示で俺の隣の席へと向かってきた。
「はじめまして、どうぞよろしく」
 こっちを見て掛けられた言葉はありきたりなものだったのに、笑いながら向けられた視線が何か普通じゃないものを感じさせた。その予感が当たっていたことは休み時間になってすぐわかった。
「ねえ、俺が気になる?」
 そう言って口の端を上げるそいつを見た時に。

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| Blue& | 18:45 | comments(0) | - | |
Blue& 3
 放課後の蒸し暑い美術室で、机の上に置いた水の入ったガラスのコップを眺める。コップも透明、水も透明。ここに、青はない。
「海、来るの早いね」
 ぽん、と肩をたたいてきたのは、去年一緒のクラスで、美術部仲間の光だった。始業式の昨日は部活がなかったから、会うのは先月半ばに一緒に買い物に出かけた時以来だ。
 光は隣の机に置いた鞄から水玉模様の下敷きを取り出すと、彼女の定位置である私の前の席に座り、「この部屋暑すぎー」と言いながらパタパタ扇ぎ始める。
「で、コップを前に、何一人にらめっこしてるわけ?」
「来月の文化祭に出す作品のイメージを練ってたとこ」
 夏の大きなコンクールが終わって、美術部の次の発表機会が十月半ばに開かれる文化祭だった。
といっても学内発表で、この時期だと新入部員の獲得にもつながらないから、力を入れない部員も多い。実際、今この部屋で真面目に作品を作っているのは、部員の半数ぐらいだろう。
「今年のうちの部の発表テーマは『水』でしょう? てっきり海は、いつも通り海の絵を描くと思ってたけど、違うの?」
「そのつもりだったんだけど。『水』って考えてたら、海の水は青だけど、普通の水は透明だよなあとか思っちゃって。なんか原点回帰中?」
 そう言って頬杖をついてコップの水をじっと見つめていると、光も反対側から同じ姿勢でコップを見つめてくる。そうして数十秒。つい二人してぷっと吹き出してしまう。
 その時、ふと、頬杖をついている光の手首に目が行った。
「あれ、光、左の手首のとこ、ちょっと傷になってるけど、どうかしたの?」
「ああ、朝、制服着る時に校章のピンで引っ掛けちゃったんだ」
 光はそう言うと赤い線が走った左手首を右手の指でなぞった。

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| Blue& | 19:23 | comments(0) | - | |
Blue& 4
「それより、原点回帰の成果はどうですか? 海さん」
「うーん、やっぱりコップの水じゃ生きてる感じがしなくて駄目」
「まあ、海の青と空の青のコラボが好きな海の趣味じゃないでしょう」
 前髪をかき上げながら苦笑する光。長い髪がいつも綺麗で、大人っぽい。
「へえ、君、空と海の青がそんなに好きなんだ」
 急にかけられた声に美術室の入り口を見ると、昨日の男の子がズボンのポケットに手を入れながらこっちを見ていた。
「あの、ここで、何してるんですか?」
 最初に彼に会った時のインパクトが強すぎたため、問いかけがつい硬くなってしまう。
「転校生らしく部活見学中です」
 え? と問い返そうとするも、彼はこっちの驚きなんて気にもとめないで、美術室の中をぐるりと見回している。
「ねえ、廊下に飾ってある絵もここの部員の作品? 大きいし、なんか凄いよね」
「ああ、それは光が春の全国コンクールで入賞した絵なんです」
 今、廊下に目立つように飾ってあるのは、光の描いた、等身大の「オフィーリア」だ。
 画家ミレイの代表作である同名作品をモチーフに、水の中に横たわった女性が、胸の上で手を組みながら目を閉じて微笑み、その周りを生き生きとした草花が取り囲んでいる。光らしい、あったかい作品。
 私が光を示すと、彼は「ああ、君か」と軽く頷く。知ったような様子に不思議に思って光を見ると、
「海、彼に敬語を使う必要はないよ。重野君は、昨日うちのクラスに来た転入生だから」と答えた。
 その言葉に、私はなんだか意外な気持ちがした。彼の、人のすぐ近くに踏み込んでくるような振る舞いは、どこか余裕を感じさせたから。
「ところで、さっきの話だけど。空が好きなら君も屋上に来なよ」
 空に近づけるよ、と彼は笑った。

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| Blue& | 19:33 | comments(0) | - | |
Blue& 5
 屋上のわずかな日陰に寝そべってレンズ越しに空の青を見つめる。そして時折シャッターを切る。面倒でたまらない学校生活の中で唯一解放されるのが、ここでこうしている時間だった。
 顔からカメラを離せば、自由な青が周りに広がっていて、気持ちが凪いでゆくのがわかった。
 誰にも何にも邪魔されない青。教室から眺める切り取られた空や、自分の部屋の壁と天井一面に貼った空の写真とは比べものにならないくらい、好きだ。
 下ばかり向いて、汚れた地面ばかり見て、この美しさをわからないままに生きている奴らは、そのまま腐って消えればいい。この青以外、いらない。
 そうして青に包まれた気分で目を閉じていると、タン、という音がし、足音が続いた。立ち入り禁止の屋上に無許可で入ってくる奴は限られる。
「新学期、始まっちゃったね」
 仕方なく目を開けると、すぐ横の屋上の手すりにもたれ、下の校舎を眺める女が一人。
「また、あんたか」
 俺の言葉にそいつはこっちを見て少し笑うと、掛けていたメガネを屋上のコンクリートに無造作に置いた。
 締め切った室内では蒸し暑い空気も、風の取り巻く屋上では緩和される。代わりに、日陰から少しでも出れば天高くにある太陽の光が肌を刺す。
 長い髪を風にさらわれながら日なたにいるそいつの視線の向こうを思うと、喧騒が戻ってきた。群れながら下校する生徒達があふれているだろう地上。
「みんな、夏休み終わって最悪とか言いながら、不思議なくらい楽しそうだよね。私なんて昨日の夜、今日学校に来るのが憂鬱すぎて手首切りたくてたまらなかったのに」
 わざとらしいため息とともに発せられた言葉に、半袖から伸びた白い腕に視線を向ける。そこには、言われなければそれほど気にならないくらい薄赤い線が幾つか走っていた。取るに足りない傷。
 邪魔された思考を空へと戻す。どうせそれ以外にできることはない。
「さて、暑いしだるいし眠いから、私ももう帰ろうっと」
 そいつはメガネを拾って掛け直すと、いつものように、俺が屋上に置きっぱなしにしているイスを使って窓を越え、屋上の隣にある写真部の部屋へと消えた。

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| Blue& | 20:26 | comments(0) | - | |
Blue& 6
「立入禁止の屋上で女の子とデートか。いいね」
 ほんの少しの間を置いて、窓から現れた男が一人。今日は久しぶりの屋上で一人を満喫することは不可能らしい。何でここに来たんだ、と目で訊く。
「休み時間に話しかけても、一緒に帰ろうって誘ってもつれなくされたら落ち込むだろ? で、ダークな気分のまま学校の中をうろうろしてたら、屋上に続く扉から女の子が出てくるじゃん。で、気になって俺も侵入を試みてみた、というわけ」
「俺、学校の屋上に出るの初めてー」と楽しそうに走り回る奴を、日陰から若干呆れを交えた気分で見る。
「あんまり目立つことをするな。一応、立入禁止なんだから、気づいた奴らに騒がれたら迷惑だ」
 そう言うと、「そうだった、ごめーん」と言って急におとなしくなった奴が、すごくウザい。けれど、特定の人間に対してそんな感情を持つのは、俺にとっては珍しいことだった。
 いい奴か悪い奴か、親しいかどうかなんて関係なく、そこら中に存在する「人間」というもの自体が俺にとっては全部邪魔にしか感じられず、嫌いで。それを感じ取る普通の奴らは、俺に愛想笑いは向けても、不必要に近づいてこないから。
 それは、この学校や近所にいる他人だけでなく、一緒に暮らしている親でさえも。
「ねえ、俺が気になる?」
 俺が一度無視したセリフが繰り返される。屋上の柵に背中を預けるのを真っ直ぐに睨むと、そいつは大切なことを教えるようにそっと、言った。
「それは、君が空だからだよ」
 そして向きを変えると、さっきの女と同じように、段差に上って柵から下を覗く。
「この世界には神のいとし子がいる。彼らは自然への愛着が強い。魂の自然に対する感応力が異常に高い、という方が正しいかな。そのために――薄汚れた大地の上で、当たり前のようには生きていけない」
 だから選ぶんだ、とそいつは言った。

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| Blue& | 20:51 | comments(0) | - | |
Blue& 7
「でさ、やっぱり一番の見所は、×××が×××を急に抱きしめてキスしたところでしょー」
「えーでも、やっぱり私的には×××とくっついてほしかったなー」
 お昼の教室。仲良し四人で机をくっつけてお弁当を食べながら、おしゃべりに花が咲く。女の子同士では、何をしゃべっても盛り上がって笑顔が途切れない。
 気になる彼の話はちょっと小声で。昨日見たドラマの話では、違う俳優が好きな子同士がそれぞれのカッコ良さを熱く語り合ったりして。私もそんないつものやり取りが楽しくて笑いを返す。ポーズをとってドラマの決め台詞を繰り返すのを見て、つい吹き出してしまったり。
 でも、今のこの笑顔は偽物じゃないのに、すべてには、もうならない。
 だって、みんなはきっと、知らないから。わけもわからず流されそうになる、あの恐怖と、孤独を。
 前に座るキョウコも、隣に座るトモミも、斜め前に座るシズカも、すごく大切で、私のことを大切にしてくれる友達だけど。黒板の前で絶対にギタリストになるんだって言っているキョウコが片思い中の彼も、すぐ横の机に突っ伏してひたすら睡眠を取っているゲーマーも、この教室、この学校、この世界にいる、みんな。
 知らないままでいられるなら、きっとその方が幸せ。そして、私がそうだなんて、絶対に知られたくない。
「ね、海、さっきからお箸止まってるよ」
「あ、ちょっとボーっとしちゃってた」
 もしかして具合悪い? と心配してくれる友達に安心させるように笑いながら、心の中でゴメンね、と呟く。
 こんなに幸せなはずなのに、ずっと不安が消えなくて生きていける気がしない私は、きっとどこかが壊れてる。
 海に還りたい、そう強く思った。ずっと昔から大好きなあの青い水に包まれて、安らかに眠りたい。自分の中にある何かが、自分の意思を超えて、穏やかな世界を壊してしまう前に。
 だけど、同時に怖かった。あの青に吸い込まれて、二度とここに戻れなくなってしまうことが。

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| Blue& | 19:08 | comments(0) | - | |
Blue& 8
『空に近づけるよ』
 その時、ふいに思い出した彼の言葉。
「ゴメン、用事思い出したから、ちょっと出てくるね」
 食べかけのお弁当をランチバッグに押し込んで、おしゃべりを続けるみんなに一言断ると、足早に教室を出る。私の好きな、もう一つの青に会うために。
 触れられない、届かない、でも見ていたい青。みんなみたいに当たり前のようにこの場所に立っていられない孤独を、あの青に解き放ちたかった。
 一番高い隣校舎へ行き、階段を駆け上る。実験室や文化部の部室の多いこの校舎は、昼間でも比較的静かだ。上へと向かう私の上履きの音が空気に響く。
「あれ、海?」
 屋上へと続く階段の途中、踊り場まであと数段というところで、上から声を掛けられた。踊り場に立つのは、珍しくメガネを掛けた光。
「そんなに息切らせてどうしたの?」
 不思議そうな顔で聞かれても、今ここにいる理由は上手く説明できない。
「ちょっと、屋上に出てみたくなって」
 ごまかし笑いをしながら、屋上へと続くドアのところまで行き、手を掛ける。――開かない。
 冷静に考えれば、屋上が立ち入り禁止なのは当たり前のことだったのに、忘れていた自分が恥ずかしくなる。諦めるしかないか、と戻る気持ちになりかけた時。
「屋上への入り方、教えてあげようか」
 予想外の申し出に驚くと、光は楽しいいたずらをするみたいに笑って、こっち、と屋上へ出るのとは違うドアを指す。
 開けるとまず分厚い黒いカーテンがあって、その奥に使い古しの机とパイプイスが置かれた、あまり広くない部屋があった。机の上には、数台のカメラと数十枚の写真が転がっている。
 写真に写っていたのは、どれも青空だった。
 つい写真に目を奪われていた私を、光がこっち、と手招きする。そこにあったのは、開いたままになっている、屋上に面した窓。
「ここから出るの」
 光はお手本というように窓のところに置かれたイスに上って窓枠を超えると、屋上へと下りた。私も真似をして、初めての屋上に足を踏み入れる。
 顔を上げると、晴れ渡った空の青がいつもよりずっと近くに見える気がした。
「ねえ、どうして……」
 ここへの入り方を知っていたの。そう訊ねようと光を見ると、くちびるの前に人差し指を立てたポーズに止められる。
そのまま彼女の振り向いた方に目を向けると、すぐ側の日陰で、背の高い男の子がカメラを抱えたまま眠っていた。

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| Blue& | 12:26 | comments(0) | - | |
Blue& 9
 どうせまともに参加していない委員会の呼び出しに、せっかく「箱」から抜け出せる昼休みの大半を潰されて、むしゃくしゃした気分で教室に戻る。
 隣の席のウザい転校生は、何の気まぐれだか写真部に入部すると言い出した。昼のチャイムが鳴ると同時にカメラを抱えて被写体探しに飛び出していったため、俺に絡んでくる奴はいない。
 窓越しに空を見上げると、曇り空。灰色が濃くはないから、きっともう少し経てば太陽も出てくるだろう。
 気まぐれに、別のクラスの奴らも交じって騒がしい教室に目を向ける。真ん中あたりで、頬杖をついて俯き気味に本を読んでいる女が一人。長い髪で、俺のいる斜め後ろの席からその表情はわからない。
 この、人の詰まった狭い空間の中で、そいつと俺の周りだけが空いていて、他人の視線からも外れている。悪意なく。座席の配置上、その違和感は俺以上に際立っている。だが九月にもなれば、今ここにいる人間にとってそれは珍しいものではない。
 ただ、俺にとって他人とのこの距離は、自ら望みなくせないものだが、あいつはきっと、違うのだろう。
 残り十分ほどの昼休みを俺は眠って過ごすことにした。机に突っ伏していると、飛び交う声が余計に耳に響くが、青空だけを心に思いながらまどろむ。
 うるさくて邪魔な現実は、見たくないしいらない。自然が織り成す、青と白の完璧な作品。どこまでも広がる空。それと共にあって許されるのは、同じように青く、白い波が打ち寄せる海くらいだろう。
 そうしてぼんやりと時間は経ち、やがてチャイムの高い音が鳴る。目を押さえながらゆっくりと顔を上げていく。
「はー、間に合ったー!」
 例の転校生が後ろの扉から息を切らしながら飛び込んできた。集まる視線、掛けられるたくさんの笑い声。
「ギリギリだなー大地! なんか良い写真撮れたか?」
「うーん、サッカーやってる男子と、バレーやってる女子のところでちょっと撮ってみた。動いてるのを撮るのはやっぱ難しいけど、楽しいわ」
 そいつはわくわくした表情で答えると、席に着く。ワイシャツの襟のところに手を掛け、風を入れる。その横顔を伝う汗。
 まだこの学校に来たばかりだというのに、こいつはここで生きているんだな、そう思った。

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| Blue& | 10:04 | comments(0) | - | |
Blue& 10
 放課後、雲が消えて晴れ渡った空を、屋上のいつもの場所、ひんやりとしたコンクリートに寝そべって一人眺める。繰り返す儀式。それに飽きることはない。
「ちょっとお邪魔しまーす」
 明るさを感じさせる声と共にスカートをなびかせながら女が降り立つ。そして、日陰に寝そべる俺の方をちらりと見ると、屋上へ出たドアのすぐ横の壁に取り付けられた鉄のはしごを上っていく。俺はただ、空を見つめる。
 この屋上で一番高いのは、鉄のはしごを上った、隣にある写真部の部屋の上だ。いつもいるここと違って光を遮るものがないから、俺はこの時期には近づかない。
 そして、上には転落防止のための柵がない。
 身体を少し起こしてそちらに目を向けると、隣の校舎側の淵の近くに立って下を見ている姿が見えた。あと一歩踏み出せば、地上へと落ちていく距離。
 あいつはいつもここに来る度に、下ばかりを見ている。
 しばらくそうしていたかと思うと、今度は俺のいる屋上側の淵に来て座り、足を伸ばす。
「ねえ、寂しいって思ったことある?」
 青空を背負い、伸ばした足をぶらぶらさせて無邪気さを装いながら、いつもの「笑顔」でそいつは聞いてくる。俺はまたコンクリートに完全に寝そべって空を見る。
「他人なんて、本当に美しいものに気づかないまま、笑い続けて生きる奴らばかりだ。たとえ血が繋がっていようと、俺と同じ世界を共有することはない。――俺は、一人でいい」
 そっか、とだけそいつは答え、やがて上から下りてきた。
「死にたいなら、ここから飛び降りればいいだろう?」
 目を合わせて言うと、黒い瞳が一瞬揺らぐ。そして浮かんだのは、いっそ穏やかと言える表情。
「バカね、この高さじゃ上手く死ねるかわからないじゃない」
 そいつは子供に言い聞かせるようにすると、いつものように隣校舎が見える鉄柵にもたれかかった。
「あ、重野君がいるよ」
 見てみて、とうるさく手招きするそいつに諦めて、起き上がって柵から下を覗く。隣校舎につながる渡り廊下のところにカメラを持ったあいつがいた。一緒に喋っていた友達だかが隣校舎に消えると、ふと上を向く。
 俺達に気づいたあいつは、笑顔でブイサインを空に掲げた。

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| Blue& | 12:39 | comments(0) | - | |
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